2010年06月05日

エリアス・カネッティ『耳証人 新・人さまざま』岩田行一訳 法政大学出版局 より

「耳証人」

耳証人は見る労をとらないが、それだけいっそうよく聞く。彼はやって来る、立ちどまる、そっとかたすみにちぢこまる、書物とか陳列品をのぞく、聞こえることは何でも聞く、それからさりげなく放心のていで立ちさる。彼の耳はどんな装置よりも優秀かつ正確であり、どんなにひどいことであっても、何ひとつ抹消されず、何ひとつ排除されず、嘘や下がかった言葉や罰あたりな言葉やあらゆる種類の下品な言葉や辺地のほとんど知られていない言語による悪口雑言や彼自身理解していないようなことすら、彼は正確に耳に刻みつけており、お望みとあればそれらそっくりそのまま引きわたすのだ。
posted by poka-risu at 00:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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